人工視覚植込デバイスを開発・提供していた米 Second Sight Medical Products が経営難に陥って開発とサービスを打ち切り、350 人以上の利用者が再び視力を失う危機に陥っているそうだ
(IEEE Spectrum の記事、
The Verge の記事)。
Second Sight の人工視覚植込デバイス「Argus」は患者の網膜に接続した電極から微弱な電気刺激を加えて視界に光の点を映すというものだ。カメラからの映像を変換して対応する位置に光の点を映すことで、第 1 世代の Argus I では 16 ピクセル、第 2 世代の Argus II では 60 ピクセルの映像が見えるようになる。Argus II は他の神経変調療法デバイスの 5 倍ほどの価格となるおよそ 15 万ドルで販売されており、手術やリハビリもあわせて 50 万ドルほどかかるが、それでも赤字だったという。
Second Sight は 2019 年 7 月に網膜植込型の技術を段階的に終了し、次世代の脳植込型人工視覚デバイス Orion の開発に注力する計画を患者に通知。以後も変わらず Argus のサポートを続けると約束していたが、2020 年 3 月には CEO 辞任に続いて植込みデバイス R&D 担当重役も辞任し、COVID-19による資金調達難を理由として大半の従業員の解雇と事業終了計画を発表した。さらに先日、米 Nano Precision Medical (NPM) との合併を発表したが、合併後は NPM の治療薬植込み技術の開発が中心となり、Orion の開発については何も決まっていないとのこと。
現在 Argus / Orion を使用している患者は故障がなければ使い続けることができるが、いつまで使えるのかわからない。既にデバイスが機能しなくなってしまった患者もおり、植え込んだままでは MRI が使えないなどの問題もあるが、取り外し手術も高額で高リスクのため、そのままにしている患者もいるとのことだ。IEEE Spectrum の記事では、今回の件により将来の患者はデバイス植込みを検討する際の選択がさらに難しくなる可能性を指摘している。
| ITセクション
| テクノロジー
| ビジネス
| アップグレード
| 医療
| IT
|
関連ストーリー:
Apple、iPad や Mac を含む医療機器への磁気干渉リスクがある製品のリストを公開
2021年06月29日
植込み型除細動器などの通信プロトコルに患者を攻撃可能な脆弱性
2019年03月23日
植込み型心臓電気生理学デバイス用プログラマーにリモートから患者を攻撃可能な脆弱性
2018年10月15日
大手メーカー製の植え込み型神経刺激装置、攻撃者によるプログラム書き換えやデータ読み取りが可能な問題
2018年04月22日
ペースメーカーの脆弱性を修正するファームウェア更新が提供される
2017年09月03日
人工網膜で視力を回復される研究、来年度に臨床試験申請へ
2017年02月14日
チェイニー元米副大統領、テロリストからの攻撃を懸念して植え込み型除細動器の無線機能を無効化していた
2013年10月20日
網膜を直接刺激する義眼デバイスで文字を読むことに成功
2012年11月28日
ペースメーカーをハッキングして過電圧を与えることができる脆弱性
2012年10月22日
マウスの視覚をリバースエンジニアリングして人工義眼を作る
2012年08月17日
目の代わりになる「人工視覚装置」、阪大の研究グループが試験に成功
2010年05月06日
左目を失った女性アーティスト、義眼をカメラに換装してくれるエンジニアを募集中
2008年11月20日
太陽電池な視力回復インプラント
2006年04月25日
人工網膜チップセットで再び光を
2002年09月20日
Source: スラッシュドット